ハニーバンダム,バイカラーコーン
      現代モロコシ事情  
                      …トウモロコシ畑のバイオテクノロジー
 通勤の途中で目にするトウモロコシ畑に,茎の先端に穂をつけたり,途中に大きな実を付けた株が目立つようになってきた。近所の八百屋の店先にも「新物・甘いハニーバンダム」とか「新品種・すご〜く甘いバイカラーコーン」などの札をつけたトウモロコシが沢山並んでいる。そんなトウモロコシを買ってきて,皮をはがしてみると,中には,色や形の揃った粒がビッシリとつまっていて(バイカラーコーンは名前のように淡黄色と白色の2色),ゆでても,焼いても甘くて美味しい。
…ところが,今のこのモロコシ達は,僕のイメージの中にあるモロコシ達とはずいぶんと違っている。イメージの中のモロコシは,秋の台風の頃,すご〜く背の高い茎に付いている実を取ってくるもので,皮をむいてみると形も大きさも不揃いな粒がまばらに並んでいたり,1つの穂の中に紫〜茶〜黄と何種類もの色の粒が入っているものさえあった。食べても,甘いものはごく一部で,多くは堅くて美味しくなかった。
…イメージ中にあるような古いタイプのトウモロコシを捜し出そうと,ここ数年来努力しているのだが,どこに行ってもなか見つからない。トウモロコシ畑には,いったいどんな変化が起ったのだろうか?
 トウモロコシはメキシコ高原に自生しているテオシントと言う雑草がルーツトだとされ,ジャガイモやトマト,トウガラシなどと同じ,新大陸生まれの作物で,日本には1579年にポルトガル人によって始めてもたらされた。現在栽培されているトウモロコシは粒に含まれているデンプンの性質の違いで,硬種(レントコーン),甘味種(スイートコーン),爆裂種(ポップコーン),糯種(もちもろこし)に分けられる。トウモロコシはどの種類も雌雄異花で,雄穂は茎の一番先端に,雌穂は茎の中間部に1〜数個付く。先に雄花が開花し,2〜3日後に雌花が開花して花粉を集めるための絹糸が伸び始め,風に乗ってやってくる他の株の花粉をつかまえて受精(他家受精)する。同じ穂についている粒でも,遺伝的に異なっているさまざまな株の花粉と受精するため,1粒1粒の持つ遺伝情報が異なり,粒の色もいろいろになって,同じ穂の中に色とりどりの粒が入ったトウモロコシが生まれてしまう。…ところが,ハニーバンダムには,こんな穂は全く見られない。その秘密は,現在日本で栽培されているハニーバンダムはハイブリッドと言う技術によって生み出された遺伝的にほぼ均一なアメリカ生れの種を使っていることにある。ハイブリッドは「雑種強勢」とも呼ばれ,異なる遺伝的特徴を持つ親をかけ合わせて子供「雑種第1代」を作ると,この子供には両親のもつ優れた遺伝的な性質(優性形質)が現れると言う遺伝の法則を上手に利用した技術だ。ハイブリッド化したトウモロコシは,どの株にも大形で粒や色が揃っていて,同じように甘い実をつける。しかし,「雑種強勢」の効果は第1代目の子供にしか現れない。自分の畑で実ったトウモロコシの種子を次の年にまいて育てた「雑種第2代」には,再びさまざまな遺伝的な性質が現れてしまい,品質に大きなバラツキが出てくる。したがって,一旦ハイブリッドを導入すると,翌年からはアメリカの種子会社がさまざまな組み合わせの中から選んで作り出しているハイブリッドの種子を毎年買い続けることになる。
 このトウモロコシ,植物生理学的には「C4植物」と言うグループに属し,「C3植物」のイネやムギに比べてはるかに優れた光合成能力を持っているため,今後の人口爆発に伴う食糧危機を救うホープとしても注目を浴び,その応用が研究されている。…君が食べているトウモロコシには,ヒトが編み出した作物改良の先端技術が込められている。歯にひっかかったモロコシを取り除きながら,こんな事にも思いをめぐらせて欲しいものだ。


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