秋の田んぼをのぞいてみよう
稲の「孫生(ひこばえ)」を知っていますか
稲の「孫生」を知っていますか
僕がまだ大学生だった今から30年程前のこと,10月上旬に伊勢平野を走る近鉄に乗り合わせた若いカップルの一人が,車窓に広がる稲刈が終わって一ヶ月程たった水田を見ながら「ほら,田んぼが青々しているでしょう。この辺りは暖かいので二期作が出来るんだよ」などと物知り顔で説明していたのを思い出した。
僕は農学部に籍を置いていたので,伊勢平野では大きな台風が襲う9月中旬〜下旬までに稲の収穫が終わるように,早い時期から米作りを始め,5月下旬の田植えが常識だった山梨ではとても考えられない4月中旬には田植えを終えてしまうことや,実際に二期作をしている宮崎県では,7月には一回目の収穫を終え,8月には二回目の田植えをするというサイクルで米作りをしていることも知っていた。
三重県の伊勢平野は山梨県に比べずいぶん南に位置しているので,確かに暖かいのだが,9月中旬から二回目の田植えを行っても二度目の収穫は不可能で,米の二期作をしているのではない。では,田植えが終わってしばらくたった後のように見えた20pほどにも伸びて青々と葉を広げた稲は,いったい何ものだったのだろうか。
最近では甲府盆地でも,育苗技術が向上したり,水田の裏作として麦を作らなくなったことなどから,イネ作りのサイクルが早まり,4月中旬に田植えをして10月上旬には稲刈りをしてしまうのが普通になってきた。そのせいか,家の近くの田んぼでも10月の下旬になると,20pほどに伸びた稲が青々と拡がる光景を目にするようになった。これらは,稲を刈り取った株跡から新しく伸びてきた茎や葉で,ひこばえ(「孫生」や「彦ばえ」と書く)と呼ばれている。11月の上旬に田んぼに降り,切り株から伸びたひこばえを調べてみると,草丈は20p位しかないのに,小さな穂が付いている事に気が付いた。
 |
 |
 |
コンバインを使っての収穫
(10月上旬) |
刈り取った後の稲は稲架(はざ)
に掛けて天日乾燥する |
収穫後の切り株から孫生が伸び
ている |
イネの仲間は一般に短日植物(日が短くなると花を付ける性質を持つ植物)としての性質が強く,10月の短い日照時間では,充分に栄養成長できないまま出穂して,花を付けようとする。しかし,この時期は気温も低下するので花は咲かず,実は結実しないままで終わってしまう。やがて,さらに気温が低下して何度も霜が降りるようになると,伸びていた葉や穂もすっかり枯れてしまい,収穫期を迎えた水田で稲が黄金色に輝く稲穂を重くたれ下げるようなことはない。
毎年,春に種子を播き,秋に収穫するサイクルを繰り返しているので,誰もが1年草だと思っているイネがこのようなひこばえを作るのは,イネが潜在的に多年草としての性質を持つ証拠だと言われている。
 |
 |
小さな孫生の所々から穂が顔を出して
いる |
収穫期を迎えて本来の稲穂
(稲穂が垂れ下がっている) |
イネのこのような性質はイネの仲間の植物としての起源を反映している。イネの仲間が地上に出現したのは,第四紀の始まり(170万年前)頃だと考えられている。当時起こった大規模な気候変動により,モンスーン(季節風)が発生し,雨季と乾季という極端に異なる2つの季節が同居するようになった。それまで,陸の大部分は森林に覆われていたが,乾季と雨季で川や湖の水位が激しく変化するようになると,季節によって水没したり乾いたりする土地が拡がり,このような場所には,成育期間が短く,成育に適さない季節になるとさっさと花を咲かせて種子をつけ,母体は枯れてしまう1年生の草本がはびこる草原が拡がるようになった。イネ科の仲間たちはこのような背景で生まれ,熱帯を中心に分布を拡げていった。
 |
 |
孫生の稲穂(結実せず緑色のまま)
|
収穫前の稲穂 (結実して金色に変わる) |
イネ科の中で,アジアに自生するニヴァラやアフリカに自生するのパルシーは一年草としての性質が強く,栽培品種の中では,長粒種と呼ばれているインデカ種がこのような性質を強く持っている。その他の種類の自生種,中でもアジアに分布しているルフィボゴンは,多年草としての性質を色濃く残しており,中粒種と呼ばれているジャワ種や,短粒種と呼ばれているジャポニカ種は,この性質を持っている。この事から推定すると,現在世界中で栽培されているイネのルーツは大きく2つの系統に分かれるように思えるが,研究者によっては,このような性質の変化は1つの種の中に起こった変化で,イネのルーツは1つだとする意見もあり,今のところ定説はない。
 |
 |
 |
| インデカ種 …長粒種 |
ジャワ種 …中粒種 |
ジャポニカ種…短粒種 |
日本のイネのルーツが揚子江流域にあることは出土品などからも確認されているが,揚子江流域のイネの起源となると,未知の部分が多い。日本人の主食として,年間900万トン以上の生産量を誇っているイネも,詳しく調べてみると謎の多い植物であることが分かる。
イ ヌ タ デ (アカマンマ)
犬蓼 Polygonum Blumei [たで科]
11月の下旬,秋を彩っていたいろいろな花達も次第に見かけなくなってきた頃に,近くを流れる川の土手で,紅色の小さな花を沢山付けたこの花を見つけた。
イヌタデは日本全国に広く分布する1年草。子供たちが、花序に紅色で密生している花をしごいて赤飯に見立てて遊んだところから、「アカマンマ」とも呼ばれている。
イヌタデという名前は,タデに似ているが葉に辛味がなく食用にならなところから付けられた。
 |
 |
|
昭和町上河東にて |